2/11/2017

現代日本語の文法構造・統語論編(上野義雄著)

早稲田大学理工学術院・上野義雄先生の最新作。昨年末に『形態論編』が出たばかりだが、その姉妹版『現代日本語の文法構造・統語論編』をご紹介。

日本で言語学を勉強する場合、英米文学科あたりで英語学の訓練を受け、大学院でも英語学を専攻することが多い。そうすると英語の構造には詳しくなるのだが、母語である日本語の構造については独学になったり、あるいは無意識に英語の分析を当てはめてしまう可能性がある。もし本ブログの読者が「自分、そうです」と思われた場合、日本語の文法構造・統語構造に関してはまずこの本をお読みなることを強くお薦めしたい。

 本書で用いられている枠組み Automodular Grammar (Sadock 1991, 2012) の懇切丁寧に解説のあと、第2章からは「繰り上げ」「コントロール」「受身」「使役」「結果構文」「敬語」「かき混ぜ」と、日本語の主要な統語現象がどのような構造を有しているのか、その分析が続く。分析を正当化するために上野先生が様々な「テスト」をお使いになっているのだが、これがヒジョーに勉強になる。また取り扱われている統語現象も多岐に渡っており、「受身」の第4章は「太郎は先生に褒められた」というような直接受身から始まり、無活用動詞の直接受身、間接受身、無活用動詞の間接受身、持ち主の受身、二重目的語動詞の直接受身、長距離受身、Fpaの直接受身(「〜と言われている」)、凍結目的語の直接受身と、日本語文法に多少なりとも慣れ親しんだ人であれば「日本語の受身って、こんなにあったのか」と驚かれるはず。

 前作と同じく、読み切るには相当の忍耐と知性を必要とするのだが、こうした作品こそが「真の学者の仕事」で「海外の日本語研究者に読ませたい」思わせる一冊。英語タイトルは(もちろん)『More about Japanese Syntax Than You probably Want to Know』である。『形態論編』と合わせ、現代日本語文法の最高峰の一角を成していることを保証します。

 最後にもう1つだけ。「まえがき」に上野先生のお人柄が出ていて面白い。ご留学先で受けた(言語学者としての)訓練について書かれている箇所があるが「ああ、そのとおり」と懐かしく思ってしまった。もしご興味があればここをクリック(名古屋大学のリンクに飛びます)。